(3)1981年に就任したレーガン大統領が「非効率だ」として、米国の造船業への補助金を撤廃した。レーガン大統領が連邦補助金を撤廃した理由は、彼の経済政策「レーガノミクス」の一環として、政府の支出削減と市場原理の重視を掲げていたからだ。当時の米国は、スタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)という経済的難局に直面しており、レーガン政権はその打開策として「政府支出の削減」(「効率が悪い」と見なされた産業への補助金カット)、「規制緩和」(自由市場に任せることで競争力を高める)、「軍事支出の拡大」(冷戦下での旧ソ連への対抗を重視)などを実施した。造船業は当時すでに国際競争力を失い、補助金によって延命されている状態で、「非効率な産業への過剰な介入」と見做された。
その結果、1983年~2013年に米国ではおよそ300ヵ所の造船所が消滅し、大型商業船舶を建造できる造船所は4ヵ所※)のみとなって、造船業の空洞化が加速した。米国の造船業は急速に縮小し、1980年代末には外洋商船の新規建造がほぼゼロになり、民間造船の衰退は海軍力の維持にも大きな影響を及ぼした。この政策は、短期的には財政健全化に寄与したものの、長期的にはアメリカの造船業の空洞化を招き、現在、中国や韓国に大きな差をつけられる原因となった
(※) ・フィリー造船所(Philly Shipyard、ペンシルベニア州フィラデルフィア。韓国のハンファグループが買収、ジョーンズ法に基づく商船建造)。 ・VTハルター・マリン(VT Halter Marine、ミシシッピ州パスカグーラ、米海軍向けなど)。 ・ナショナル・スチール・アンド・シップビルディング・カンパニー(NASSCO、カリフォルニア州サンディエゴ、米海軍向け及び次世代LNG推進船など)。 ・オースタルUSA(Austal USA、アラバマ州モービル、豪州造船大手オースタル社の米国子会社)。