もう少しかみ砕いて言えば、環境とは、量子系からの情報を単に消してしまう「ゴミ箱」のような存在ではなく、実は情報を保存して周囲に広めてくれる「証人(Witness)」のような役割を担っているのです。
例えば、空気中を飛び交う無数の分子や光の粒(フォトン)は、量子系がどのような状態であったかという情報をこっそりと受け取り、それを環境のあちこちに分散して記録します。
(※これは観測の連鎖(デコヒーレンスの連鎖)のせいです:詳しくは次ページ)
まるで環境全体が、量子世界で起きている出来事を逐一メモしてコピーを大量に作り、それらを周囲に掲示して回る「広告板」のような役割をしていると言えます。
そのため、私たち一人ひとりは量子系そのものを直接見ることはできなくても、環境のあちこちに貼り出されたこれらの「情報のコピー」を確認することで、同じ内容を共有することになります。
こうして、誰が見ても同じ情報に基づいているために、「客観的な現実」が成立するというわけなのです。
環境が“選別”して世界を作る仕組み

量子ダーウィニズムを理解する上で大切な鍵となる現象は、「デコヒーレンス」と呼ばれています。
デコヒーレンスとは、量子の世界にある「曖昧さ」が、環境との相互作用によって失われる現象のことです。
私たちが日常で目にする物質は、いつも確かな場所に存在し、粒子が同時に二つの場所にあるような奇妙な振る舞いを見せません。
しかし量子の世界では、粒子は「ここにいる状態」と「あそこにいる状態」を同時に持つ「重ね合わせ状態」を取ることができます。
では、なぜこのような不思議な重ね合わせが私たちの目には見えないのでしょうか。
その理由こそがデコヒーレンス(重ね合わせの破壊)です。
粒子は常に空気中の分子や壁、光などの周囲環境と絶え間なく相互作用しています。