これは「男性は元々リスクを取りやすく、女性は損失への恐怖心が強い」という以前から知られていた傾向とも一致しています。

なぜ男性より女性は損失回避傾向が強いのか?

プロスペクト理論が示す「損失は同じ金額の利益よりも強く感じられる」という傾向は、人類共通の心のクセとしてよく知られています。しかし、さまざまな実験を通じて、この傾向が特に女性で強く表れることが明らかになってきました。その背景には、生物学的な要因、脳神経学的な要因、社会心理的な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

まず、生物学的には男女のホルモンの違いが影響しています。女性ホルモンの一つであるエストロゲンは脳の扁桃体の働きを高める傾向があり、危険や損失に対する恐怖や不安を感じやすくします。一方で男性ホルモンであるテストステロンは、脳の報酬系を刺激して楽観的な判断を促進し、リスクを積極的に取る方向へ働きます。

脳神経学的にも、男女間で異なる活性パターンが観察されています。リスクのある選択をする際、女性では損失や危険を感じる領域(扁桃体や島皮質)の活動がより強く表れるのに対して、男性では利益や報酬を感じる領域(線条体や外側前頭前野)の活動が活発になります。

さらに、社会的要因も重要です。一般に幼少期からの社会化の過程で、女性は「失敗を避けて慎重になること」や「協調的に安全な道を選ぶこと」を教えられることが多く、その結果として、損失や危険に対する感受性が自然と高まる傾向があります。また、心理学的な調査から、女性は男性よりも不安やネガティブな感情を強く感じる傾向があり、こうした感情の強さが「損をすることへの恐怖心」をさらに押し上げている可能性があります。

つまり、こうした生物学的・脳神経学的・社会心理的な要因が重なり合って作用するために、女性は損を避ける行動を取りやすくなり、結果として男性よりもプロスペクト理論の典型的な傾向(損失回避)に忠実に従いやすいのです。