スタンフォード大学の専門家ウィリアム・ジャルディーノ氏も「この仕組みがヒトにも当てはまるかはまだ確かめられていないし、慢性的な睡眠不足が長期にわたったときにどう影響するかも分からない」と慎重な姿勢を示しています。
それでも、もし人間にも同様の回路があるのなら、睡眠障害治療に大きな手がかりを与えるでしょう。
不眠症やナルコレプシーなど、睡眠の質や量をうまく調整できない病気を抱える人たちに対し、この神経回路を標的にして「眠気」や「睡眠の深さ」を人工的にコントロールできる可能性が出てきます。
寝不足で悩む多くの人にとって画期的な治療法が登場する未来も、決して夢ではありません。
私たちはつい睡眠不足を「忙しい毎日には仕方がないもの」と軽く考えてしまいがちです。
しかしこの研究は、睡眠が健康に欠かせないことを改めて示しています。
睡眠負債は放っておけば利子付きでどんどん溜まり続けます。
けれど脳には、この「借金」を自動で計算してきっちり返済する驚きのメカニズムが備わっていました。
「睡眠不足のツケは必ず脳が覚えている」という事実を知った今、私たちはもう少し睡眠を大切にする必要があるかもしれません。
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元論文
Sleep need–dependent plasticity of a thalamic circuit promotes homeostatic recovery sleep
https://doi.org/10.1126/science.adm8203
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部