私たちの脳は、睡眠負債を細かく分割して返済するのではなく、たまった負債をまとめて返済しようとします。つまり、寝不足がたまればたまるほど、週末や休日に一気に長く深く眠り込んでしまうわけです。

近年、睡眠負債の仕組みを遺伝子や分子レベルで探る研究は進んできていますが、実際に脳のどの神経細胞が睡眠不足を感じ取って、「寝不足だよ!」という警報を出しているかまでは解明されていませんでした。

そこで、ジョンズ・ホプキンス大学のマーク・ウー教授らの研究チームは、この「睡眠負債」の記録場所を脳の中で探し出し、具体的な神経回路を見つけようとしました。

果たして彼らは、脳の中に隠された「睡眠の借金帳簿」を見つけることができたのでしょうか。

なぜ睡眠不足後は「寝だめ」をするのか?脳内にあった驚きの仕組み

なぜ睡眠不足後は「寝だめ」をするのか?脳内にあった驚きの仕組み
なぜ睡眠不足後は「寝だめ」をするのか?脳内にあった驚きの仕組み / Credit:Canva

果たして彼らは、脳の中に隠された「睡眠の借金帳簿」を見つけることができたのでしょうか?

この謎を解明するために研究者たちはまず、マウスを使って脳の中をくまなく調べ始めました。

具体的には、睡眠に関係するさまざまな脳の領域を細かく調査し、どの場所が睡眠のスイッチを入れたり切ったりするのかを探ったのです。

その結果、視床という脳の中央部にある「リユニエンス核(nucleus reuniens)」という小さな神経細胞の集まりが、睡眠のコントロールに深く関わっている可能性が浮かび上がりました。

このリユニエンス核が実際に睡眠に影響を与えるかどうか調べるため、研究者たちは特別な薬を使ってそこの神経細胞をマウスの脳内で活発に動かしました。

すると、すぐに眠り始めるのかと思いきや、意外なことにマウスは眠る前の「準備行動」を始めたのです。

毛づくろいをしたり、自分の巣を整えたりと、まるで人間が寝る前に歯を磨き枕や布団を整えるのとそっくりな行動でした。