研究チームは、信号が本物である可能性を尊重した上で、それが自然界における未知の現象によるものだったのか、それとも観測装置の構造や反射・屈折・ノイズといった“測定系由来の異常”だったのか、現時点では判別できないとしています。

つまり、「自然の新たな物理現象」だった可能性と、「装置が生み出したアーチファクト(測定誤差的な偽の信号)」だった可能性の両方が、いまだに排除できないのです。

他のどの観測装置でも同様の信号が一切検出されていないという点は、「地中から未知の粒子が飛び出してきた」といった突飛な解釈に対しては、一歩立ち止まって慎重な検証が必要であることを示しています。

とはいえ、科学には“すぐに解けない謎”もあります。

もしANITAが本当に新しい自然現象を捉えていたとしたら、それは極端に一時的で、極めて局所的な条件でしか発生しない、非常にレアな事象だった可能性もあります。

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では、仮に――本当にあれが自然界における何らかの“異常現象”だったとしたら、それはどのようなものだと考えられるのでしょうか?

考えられる仮説の1つは、それが氷床の内部で偶然に発生したプラズマ放電や、地下岩盤との摩擦による高エネルギー放射、あるいは雷や地熱との複合的な相互作用など、これまでに知られていない自然電磁現象が一瞬だけ発生したのかもしれないというものです。

あるいはもっと大胆に想像すれば、地球内部に未知の構造体や物質塊が存在していて、そこから何かが“放射”された可能性もゼロではありません。

たとえば、暗黒物質(ダークマター)の微小な塊が地球内部に衝突していたとすれば、それが一瞬だけ通常物質と反応して特異な信号を発した――というようなSF的な仮説も、理論上は存在しています。(Heurtier et al., Phys. Rev. D,2025)

さらには、空間構造が一時的にゆがんだことで、時空間の裏側から粒子が漏れ出すような、極端にエキゾチックな仮説も完全には否定できません。