つまり今回の研究は、「この現象に再現性はあるのか」「ほかの場所でも観測されているのか」を丁寧に調べる追試検証として実施されたものなのです。
検証は、南米アルゼンチンのピエール・オージェ観測所(Pierre Auger Observatory)が2004年から2018年までに蓄積した膨大な宇宙線データをもとに行われました。この施設は、世界最大級の宇宙線観測所として、15年以上にわたって地表で発生する高エネルギーな「空気シャワー」と呼ばれる現象を約700万件以上記録しています。

研究チームは、このデータの中から「ANITAが観測したような現象――つまり、地表から空に向かって突き抜けるような高エネルギー粒子の痕跡が含まれていないか」を慎重に調査しました。
しかし、明確に「上向きの空気シャワー」と呼べる現象はほとんど見つかりませんでした。
唯一、条件に合致しそうな1件のイベントが検出されましたが、詳細に調べた結果、それは上向きの信号ではなく、通常の下向きの宇宙線が地表で散乱し、偶然そのように見えただけである可能性が高いと判断されました。
さらに研究チームは、仮にANITAが検出した信号が既知の素粒子、たとえば「タウニュートリノ(τ neutrino)」によるものであったと仮定した場合、そのような現象はピエール・オージェ観測所でも数十件以上観測されているはずだという理論モデルを構築しました。
しかし実際には、そうした一致するデータはまったく検出されなかったのです。
この結果から、研究チームは、ANITAが観測した“上向きの電波パルス”は、既存の素粒子理論に基づく説明では再現できない、という結論に至りました。
ただし、これは「ANITAの観測が間違いだった」と断定したわけではありません。