従来からクマに襲われそうになった際の対策として「うつ伏せになって頭や首、腹部を守る」ことが推奨されてきましたが、研究によってその効果に数字の裏付けを与えられたわけです。
本研究の意義は、従来言われていた防御姿勢の有効性を科学的に裏付けた点にあります。
データで示されたことで、対策として呼びかけることができるようになります。
これは、日本のみならず世界的にも貴重な知見といえるでしょう。
防御姿勢が有効な理由としては、やはり致命傷になりやすい急所(顔・頭・首・腹部)を守れる点が大きいと考えられます。
ツキノワグマの場合、多くは人間に襲いかかっても一度攻撃した後は深追いせず去っていく傾向があります。
実際、秋田県のデータでもクマ被害者の死亡例は幸い確認されていませんでした(全国では2023年度に6人の死亡あり)。
短時間の攻撃で済む場合、その一瞬を適切に対応できるかが重症化を防ぐポイントとなります。
立ったまま反撃しようとして顔や喉をやられてしまえば重症は避けられませんが、防御姿勢でうずくまれば頭部や内臓を守れます。
結果として、仮に負傷しても手足の外傷や擦り傷程度で済み、重大な後遺症を負うリスクを格段に減らせるのです。
もちろん、防御姿勢を取れば全く無傷で済む保証はありません。
実際7人のうち何人かは軽傷(例えば打撲や擦過傷程度)は負った可能性があります。
しかし重症(深刻な障害が残るような怪我)には至らなかったという事実は極めて重要です。
この「命に関わるような大怪我を避けられる可能性」こそが防御姿勢の価値と言えるでしょう。
一方で今回のデータからは、とっさに最適な防御姿勢を取れた人は全体の1割程度しかいなかったことも浮き彫りになりました。
クマに突然襲われるという極限状況では、恐怖で硬直したりパニックになったりして、頭で分かっていても身体が動かないケースも多いでしょう。
また防御姿勢そのものを知らず、逃げようとしてしまった人もいたかもしれません。