言わば「経験則」として勧められてきた策ですが、実際のデータによる裏付けがなかったのです。
クマを見かけたときの大前提
防御姿勢の話題に入る前に、「クマを見かけたときにはどう行動すべきか」という基本を押さえておきましょう。まず当然ですが「出会わない・襲われない」が原則であり、出没情報を確認し複数人で行動しながら鈴やラジオで存在を知らせるなど予防策を徹底することが最優先です。万一目の前にクマが現れても走らず騒がず、ザックを背負ったまま視線を外さずにゆっくり後退し、驚かせる大声や急な動きを控えて距離を取ります。クマは背中を見せて逃げる対象を追いかける習性があり、急に背を向けて走ると攻撃される可能性が高まります。クマが威嚇突進を見せても多くは途中で止まるため落ち着いて後退を続け、スプレーがあれば風下を確認して噴射の準備をします。以上が「まずクマを見かけたとき」の大前提です。
こうした中、秋田大学の研究者たちはこの疑問に挑みました。
研究のきっかけは「実際の救急医療の現場で、うつ伏せによる防御姿勢をとったことで重症化を免れた事例を経験」を見て、その有効性を実データで検証しようと考えたことでした。
クマの一撃をかわす最終防衛、“うつ伏せシールド”の科学

研究グループは秋田県内で令和5年度(2023年4月~2024年3月)にクマに遭遇して負傷し、県内の医療機関を受診した全ての人(70人)を対象にデータを解析しました。
秋田県が保有する「クマによる人身事故情報」と、各医療機関のカルテ情報を照合し、被害者がどのような状況でどんな対応を取り、結果としてどの部位にどれほどのケガを負ったのかを詳細に調べたのです。