レチノイン酸(RA)はビタミンA由来の分子で、胎児の発生段階で四肢をパターンづけるシグナルとして働くことが知られています。

ニキビ薬に含まれているレチノイン酸とは?

レチノイン酸(トレチノイン)とは、ビタミンAから作られる物質で、主にニキビの治療薬として使われています。私たちの皮膚は通常、新しい細胞を生み出し、それが古い細胞と入れ替わることで健康な状態を保っています。しかし、毛穴が詰まったり、皮脂が過剰に分泌されたりすると、ニキビができやすくなります。レチノイン酸はこの細胞の入れ替わりを促進して毛穴の詰まりを防ぎ、皮脂の分泌をコントロールすることでニキビの発生を抑える効果があります。さらに、レチノイン酸は皮膚のコラーゲン生成を促す作用があることも知られています。つまりレチノイン酸は人間の皮膚細胞において再生を促進する機能を果たしているのです。では他の生物、特に再生能力の高い生物では皮膚細胞だけに留まらず手足の再生にも関与しているのでしょうか?近年このレチノイン酸が細胞の位置情報を決定する役割を持つことがサンショウウオの再生研究から明らかになり、再生医療の分野でも新たな可能性が注目され始めています。

モナハン教授らは、アホロートルの再生でもこのレチノイン酸が“どの部分をどこまで作るか”を伝える合図になっているのではないかと考えました。

実際、レチノイン酸はアホロートル特有の物質ではなく人間を含む脊椎動物全般に存在し、私たちの場合は食事やスキンケア用のレチノール(ニキビ治療薬成分)として取り入れているものです。

研究チームは、この身近な分子がサンショウウオの再生能力の裏で果たす役割を詳しく調べることにしました。

ニキビ薬成分が“再生GPS”になっていた

ニキビ薬成分が“再生GPS”になっていた
ニキビ薬成分が“再生GPS”になっていた / Credit:Canva

レチノイン酸がどのように再生に関与しているのか?

謎を解明するため研究チームはまず、アホロートルの体内でレチノイン酸が実際にどのように働いているかを観察しました。