イヤホンを装着し、視線を落とし、誰とも目を合わせない。
この行動は周囲から見ると、まるで「自分の存在を否定された」ような印象を与えかねません。

でもこれが今では当たり前になっています。
こうした無関心の連鎖は、社会的孤立(social isolation)を加速させます。
アメリカでは、成人の半数以上が“深刻な孤独”を感じているという調査結果もあります。
つまり、注意力というリソースが「自分だけのため」に使われるとき、社会全体から他者への関心が薄れ、私たちは共に存在していても“つながっていない”状態に陥るのです。
では、どうすればこの孤立のループから抜け出せるのでしょうか?
孤立から抜け出す「注意力」の用い方とは
トロップ氏は、現代人たちの孤立のループから抜け出すために、注意力という限られた資源を、意図的に他者に向けるよう勧めています。
たとえば、バス停で隣に座った人に目を向けて軽く会釈することができます。
また、エレベーターで乗り合わせた人に一言「こんにちは」と声をかけてみるのはどうでしょうか。

それだけで、「あなたを認識しています」というメッセージが伝わり、人は“自分の存在が承認された”と感じるのです。
こうした行動は「取引的(transactional)」な態度ではなく、「関係的(relational)」な視点で他者を見る姿勢から生まれます。
「取引的」とは、相手から何か得られるかどうかで接触の価値を判断する考え方です。
一方で「関係的」とは、たとえ利害がなくとも、人として相手を認識し、尊重する行動を重視します。
この姿勢の違いは、日常のささいな行動に大きな影響を与えるはずです。
例えば、レジで会計を済ませたあとに「ありがとう」と伝えるのは、利害に関係なく相手を尊重する行動です。