最近、見知らぬ人とアイコンタクトを交わしたり、会釈したり、軽く会話したりしたのはいつですか?
もしかしたら、「思い出せない」という人も少なくないかもしれません。
スマホの画面は、現代人にとって“新しい顔”になりました。
隣の人と目を合わせる代わりに、私たちは今日もガラス越しに“自分だけの世界”とにらめっこを続けています。
この社会現象に警鐘を鳴らしているのが、米マサチューセッツ大学アマースト校(UMass Amherst)の社会心理学者リンダ・R・トロップ氏です。
彼女は心理的寛容(psychological generosity)の視点から、見知らぬ人とのちょっとした関わりがいかに私たちの社会的つながりや幸福感に貢献するかを論じています。
その核心は、「注意力」という限られた資源の使い方にるようです。
目次
- 注意力は「限られた資源」
- 孤立から抜け出す「注意力」の用い方とは
注意力は「限られた資源」
私たちの脳は、一度に全ての情報を処理することはできません。
世界は情報であふれていますが、人間の認知システムには処理能力の限界があるため、「選択的に注意を払う」ことによって、取捨選択を行いながら現実を認識しているのです。

この「注意」は、まさに時間やエネルギーと同じく“有限な資源”として扱われるべきものです。
そして、その配分はほとんどの場合、自分にとって意味があると判断された情報に集中される傾向があります。
例えば、目の前のスマートフォンの通知、SNSの反応、次の予定、目的地へのナビゲーションなど、現代人は「自己関連性の高い情報」ばかりに注意を注いで生活しています。
この傾向は、一見すると効率的な情報処理に見えます。
しかし実際には他者との接触や社会的なつながりを無意識に削ぎ落としているのです。
その結果、公共の場では「他人の存在を視界から消す」ような態度が蔓延します。