近年になって、この課題に挑むための大規模な実験データが集められ始めました。

ツォディクス氏らのチームは、様々な長さの物語を用いたオンライン実験を実施し、多人数の物語想起データを収集しました。

彼らの観察によると、人はランダムな単語リストとは異なり、物語を思い出すときには出来事を原作の順序通りになぞる傾向が強いことが分かりました。

さらに、物語が長くなるほど一つひとつの想起文に詰め込まれる内容が増え、全体の想起の長さ(文章数)の伸びは物語の長さそのものよりも緩やかになる(物語が長くなるにつれ相対的に要約が進む)ことも報告されています。

このような統計的規則性が見られるのは、記憶に階層的な要約メカニズムが働いている可能性を示唆していました。

研究チームはこれらの特徴を数理モデルで説明することを目指したのです。

物語記憶の新常識「4×4ルール」

物語記憶の新常識「4×4ルール」
物語記憶の新常識「4×4ルール」 / ツリーモデルでは、まず物語全体(42文ぶん)を“幹”として頭に入れます。そこから枝が伸びるように、物語は上から順に細かく分けられ、ひとつの枝が増えてもせいぜい四つまで、そして枝分かれは四段目でストップする――この制限は「人が一度に扱える情報はおおよそ四つまで」という記憶容量の限界を映した設定です。こうして最終的に先端にぶら下がる青い“葉”には、その数字ぶんの文章をギュッと要約したメモが一枚ずつ収まります。つまり、長い物語も枝をたどっていけば、最小単位の「葉メモ」だけで手軽に思い出せる構造になっているのです。Credit:Random Tree Model of Meaningful Memory

研究チームは、私たちが物語を思い出して語るときにどんな癖があるのかを探るため、オンラインで大規模な実験を行いました。

クラウドワークスのようなサービスを通じて各物語につきおよそ100人の参加者を募集し、画面に表示された短編から長編までさまざまな物語を読んでもらったあと、その内容をできるだけ詳しく文章で書き起こしてもらいました。