春の夜空に、驚くべき旅をする小さな昆虫がいます。
その名は「ボゴン・モス(Bogong moth)」と呼ばれる小さな蛾。
わずか5センチの体に、米粒の10分の1ほどの脳を持ちながら、この蛾は星空を「地図」にして、なんと1000キロもの道のりを目的地に向かって正確に飛び続けていたのです。
南オーストラリア大学(UniSA)の研究チームによると、ボゴン・モスは星空を目印に長距離移動をする史上初の昆虫とのことです。
研究の詳細は2025年6月18日付で科学雑誌『Nature』に掲載されました。
目次
- 「星を読む虫」夜空に導かれる神秘の大移動
- 星に導かれる驚異の脳コンパス
「星を読む虫」夜空に導かれる神秘の大移動
オーストラリアの春。
気温が上がり始める頃、南東部一帯の大地から、無数のボゴン・モスがいっせいに羽ばたきます。
その数、毎年数十億匹。
目的地は同大陸の東海岸にあるオーストラリアアルプス山脈の冷たい洞窟です。
彼らは夏の間そこで「夏眠(aestivation)」と呼ばれる休眠状態に入り、秋になると再び南東部へ戻って繁殖し、命を終えます。

ボゴン・モスの寿命は1年ほどなので、長距離移動をして洞窟に行くのは生涯に1度きり。
つまり、全員が初めての長旅なわけですが、なぜ彼らは一度も訪れたことのない洞窟に正確に辿り着けるのでしょうか?
長年、この謎に挑んできたのが、動物のナビゲーション能力を研究する今回のチームです。
チームはこれまでの研究から、ボゴン・モスが地球の磁場を利用する「磁気ナビゲーション」と視覚的な手がかりとなる「星空の位置」の両方を使っていると推測していました。
そして今回の実験でチームは、磁場を無効化した状態でも、ボゴン・モスは星空さえあれば正確に進路を保てることを初めて実証したのです。
