勘の正解率が高くなる時に海馬が特徴的な活性化をするという結果は、これを脳科学的に示しています。
さらに、将来的な応用面でも興味深い示唆があります。
たとえば認知症や健忘症の患者では、記憶が失われたように見えても、痕跡そのものは残っている可能性があります。
もしそれを再活性化できれば、失われた記憶を取り戻す助けになるかもしれません。
研究グループは今後、磁気や電気による非侵襲的な脳刺激によって、海馬内に潜む無意識記憶の痕跡を意識上に引き上げられるかどうか、検証を検討しています。
また、同じグループは睡眠中に学習させた内容を目覚め後に思い出す実験や、健忘症で残った記憶能力を高める介入も模索しており、今回の「忘却エングラム」の発見は記憶障害の新たな診断・治療法開発に道を開く基盤となる可能性があります。
記憶は本当に不思議で奥深いものです。一度は忘れたと思った体験も、脳には見えない形で痕跡が生き続けていて、気づかぬうちに私たちの意思決定や行動に影響しているのかもしれません。
脳は意識に不要な情報を隠し持ちながら、必要なときに備えて環境へ適応する優しい戦略をとっている――そんな気持ちになりますね。
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元論文
Neural Traces of Forgotten Memories Persist in Humans and are Behaviorally Relevant
https://doi.org/10.1101/2025.06.02.656652
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部