その負担は健康保険組合や市町村の国民健保の赤字の原因になり、1999年にサンリオの健保組合が厚生省に不服申し立てをした。健保連も「国保の赤字を健保組合に転嫁するものだ」として老健拠出金不払い運動を起こし、健保組合の97%が1999年5月納付分の拠出を(延滞利息のつくまで)延期した。

こうした圧力もあって2002年に見直しが行われたが、その後も老人医療は原則1割負担だった。その後も負担の分配を明確にして公費負担を抑制すべきだという意見が強く、2008年に後期高齢者医療制度ができた。

これについては当時「後期高齢者という名前は差別的だ」とか「高齢者の負担が増える」と反対論が強く、民主党はこれに反対するマニフェストを掲げて政権を取ったが、長妻厚労相は官僚に追い出された。

「国民皆保険」は維持できるのか

このように老人医療が問題を起こす原因は、国民皆保険という制度に矛盾があるからだ。保険は(火災保険でも生命保険でも)個人がリスクに応じて加入するもので、保険料は被保険者が選ぶ。

健康保険は企業の労働者を対象とするもので、自営業者を想定していなかった。国民年金も国民健保も、岸信介が自民党の集票基盤だった農村と自営業者に支持を広げるためにつくったものだ。

賦課方式の医療保険は、基本的に税金である。アメリカでは、社会保険料は給与税(payroll tax)と呼ばれる。健康保険を任意加入にするとハイリスクの被保険者ばかりになるので、強制加入には合理性があるが、リスク負担を一律にするのは不合理である。

このように国民皆保険には矛盾があるが、それが超高齢化で顕在化した。今の後期高齢者は、現役のときほとんど保険料を払っておらず、企業と雇用関係もないので、本来は自分で保険料を払わないといけない。

ところが後期高齢者医療制度の保険料は、給付の1割にも満たない。あとの半分が公費、他の半分が健保組合からの支援金という異常な状態である。この奉加帳方式のおかげで健保組合の8割は赤字になり、解散する組合が多い。