もしそのような力(それを媒介する未知の粒子)が存在すれば、原子核内の中性子と原子を取り巻く電子の相互作用に微小な影響を及ぼし、原子のスペクトル(遷移周波数)のわずかな変化として現れる可能性があります。

新たな力の探索は大型加速器での高エネルギー実験だけでなく、原子やイオンを用いた精密分光実験でも行われています。

複数の同位体を持つ元素では、同位体ごとに電子遷移の周波数がわずかに異なる(同位体シフト)ため、それを精密に測定して比較すれば標準模型を検証し、新しい相互作用の存在を探ることができます。

特にカルシウム(元素番号20)は、原子の「兄弟違い」にあたる同位体が5種類(^40Ca、^42Ca、^44Ca、^46Ca、^48Ca)そろっています。しかもこれらの同位体は、原子核がほとんど回転していない(核スピン=0)ため、余計な複雑さが入らず互いの違いをそのまま比べやすい──実験にうってつけの素材なのです。

この研究ではカルシウム原子の同位体シフトを前例のない精度で測定し、未知の力の効果を絞り込むことを目的としました。

「キングプロット」と呼ばれる手法では、ある原子の複数同位体における二つの異なる電子遷移の周波数差をプロットし、一直線(=線形)になるかどうかで標準模型からのずれを検出します。

従来の研究でもこの方法で新しい力の兆候を探ってきましたが、今回は測定精度と感度を飛躍的に高めています。

精密分光実験は大型加速器に比べて小規模かつ低コストで、新たな物理法則を探る有力な代替手段として注目されています。

十分な精度があれば、加速器では捉えにくい微かな粒子の影響を検出できる可能性があるのです。

原子が囁く“第5の力”

原子が囁く“第5の力”
原子が囁く“第5の力” / Credit:Canva

第五の力は存在するのか?

謎を解明するための研究チームは、ドイツの物理工学研究所(PTB)、スイスのETHチューリッヒ、ドイツ・マックスプランク核物理学研究所など豪華メンバーで構成されました。