原子の内部に、これまで知られた四つの基本的な力では説明できない「第5の自然の力」が潜んでいるかもしれません。
スイスのスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZürich)などにより、原子に対して極めて精密な実験を行った結果、従来の標準模型(現在の素粒子物理学の基本理論)では説明できない微妙な「ズレ」が確認されました。
実験では異なる同位体の原子における電子の遷移周波数の差をグラフ上に書き込みし、標準模型で予想される直線(線形)からどれだけ逸脱した曲がり(非線形性)かが調べられています。
その結果、ズレはの存在は統計的に極めて有意(900σ)であり、未知の微弱な相互作用──すなわち「第5の力」の存在を示す手がかりとなりました。
研究チームによれば、この現象は「第5の力」と呼ばれる未知の微弱な相互作用、あるいは従来無視されてきた原子核の偏極効果によるものである可能性があるとのこと。
果たして私たちは未知の自然の力に迫ったのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年6月10日に『PhysicalReviewLetters』にて発表されました。
目次
- 4つの力では足りない理由
- 原子が囁く“第5の力”
- 核分極か、第5の力か
4つの力では足りない理由

私たちの知る限り、自然界の基本的な力は重力、電磁気力、強い力、弱い力の四つです。
しかし、標準模型が説明できない宇宙の謎(例えば暗黒物質の存在や物質と反物質の非対称性など)を解き明かすため、これまでの理論にない「第五の力」の存在がしばしば議論されてきました。
中でも有力な仮説の一つが、電子と中性子の間に作用する未知の力です。
4つの力と第5の力とは?
私たちの世界を動かしている基本の「糸」は、重力・電磁気力・強い力・弱い力の四つだけだと長く教えられてきました。重力はリンゴを落とし惑星を束ねる“引き寄せ”の糸、電磁気力は磁石をくっつけたり光を走らせたりする“電気と光”の糸、強い力は原子核の中で陽子と中性子をがっちり結ぶ“超強力接着剤”の糸、弱い力は放射性崩壊を起こして星を光らせる“変身トリガー”の糸です。ところが宇宙には暗黒物質や物質・反物質の非対称など、四本の糸では編み上がらない模様が残っています。そこで物理学者は「もしかすると、まだ見えていない“第5の力”が細く隠れていて、電子と中性子の間など極小の距離でそっとささやいているのではないか」と考えました。電子は原子の外側を回る軽やかな粒、いっぽう中性子は原子核の中で陽子と肩を並べる重い粒――普通は強い力や電磁気力で直接くっつきませんが、もし電子と中性子の間を取り持つ未知の“ささやき役”の粒子(ユカワ粒子など)が存在すれば、原子全体のエネルギーをほんのわずかに揺らし、その余韻が電子の色(遷移周波数)の違いとして現れるはずと考えられています。