研究者たちは、この共生システムによってウミグモが間接的にメタンという特殊なエネルギー源を自らの栄養(有機炭素)に変換して取り込んでいると結論付けました。

小さなクモが気候を動かす?

今回発見されたウミグモと細菌の関係は、動物と微生物の新たな共生パターンとして注目されます。

メタン湧出域ではこれまでにも二枚貝類やゴカイ類などとメタン酸化細菌との共生が知られていましたが、節足動物であるウミグモがメタン由来の炭素に依存して生きていることが示されたのは初めてです。

論文はこの発見を、動物と微生物の新しい相互作用を示し、メタン由来の炭素が動物の体に直接取り込まれる新たな経路を示したと位置付けています。

実際、今回のウミグモ3種の発見は、深海メタン湧出域における生物多様性の豊かさと、そうした生物がエネルギーを得る戦略の多様性を物語っています。

研究チームは「この発見は海洋におけるメタン循環の理解を一歩進めるものだ」と強調しています。

我々人類が深海について知らないことはまだ多く、3種もの新種が偶然見つかったこと自体、深海生態系の未知なる姿を浮き彫りにしています。

本研究を率いた米オクシデンタル大学のシャナ・ゴフレディ教授は、深海研究の意義について次のように述べています。

「深海は遠く離れた世界のように感じられますが、実際にはすべての生物は互いにつながっており、一つの生態系で起こることは別の生態系にも影響を与えます。気候の調節や酸素の生産、漁業資源の供給にも関わっている深海の生物多様性を理解することは非常に重要です」と述べています。

今回明らかになったウミグモのメタン共生は、その深海生態系の一端を示す発見といえます。

またゴフレディ教授は、今回調査されたものと同じSericosura属に属しメタン湧出域に生息する他のウミグモについても、同様にメタンをエネルギー源として利用している可能性が高いと推測しています。