救世主が招いた地獄―カリスマが築いた歪んだ理想郷

 ユートピアはしばしば、救世主のようなカリスマ的指導者によって率いられる。しかし、そのカリスマ性が人々を破滅へと導くこともある。

■ジョーンズタウン(Jonestown)

理想郷はなぜ地獄へ堕ちるのか?歴史に刻まれた「失敗したユートピア」たちの画像3
(画像=写真提供:The Jonestown ReportCC BY-SA 3.0)

 これは、ユートピアの試みが招いた史上最悪の悲劇として知られる。カルト教団「人民寺院」の教祖ジム・ジョーンズは、核戦争と人種間戦争が迫っているという妄想に取り憑かれ、信者たちを南米ガイアナのジャングルへと移住させた。

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(画像=ジム・ジョーンズ 写真:Nancy WongCC BY-SA 4.0)

 しかし、そこは楽園ではなく、教祖が信者を支配し虐待する独裁国家だった。1978年、虐待疑惑の調査に訪れた米国の議員団が信者によって殺害されると、ジョーンズは「最後の時が来た」と宣言。信者900人以上に毒入りの飲料を飲むよう命じ、自らも銃で命を絶った。その犠牲者には、多くの子供や赤ん坊も含まれていた。

■コロニア・ディグニダ(Colonia Dignidad)

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(画像=ビジャ・バビエラ入口を示す碑Xarucoponce–投稿者自身による著作物,CC 表示-継承 3.0,リンクによる)

 1961年、児童性的虐待の容疑から逃れるため、西ドイツからチリへと渡ったキリスト教牧師パウル・シェーファー。彼が築いた「尊厳の植民地」と名付けられたこの共同体は、裏でチリの独裁政権と手を結んでいた。政治的保護と免税の見返りに、彼は共同体を反体制派の拷問・殺害施設として提供。シェーファー自身も、共同体内で信者への虐待を繰り返した。独裁政権の崩壊後も、この地獄はしばらく続いたという。現在、この場所が「ビジャ・バビエラ」という名の観光地になっているという事実は、あまりにも皮肉だ。

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(画像=ビジャ・バビエラの建物Xarucoponce–投稿者自身による著作物,CC 表示-継承 3.0,リンクによる)