研究チームは “難しいAI学習” ではなく、単語を数えて比べるだけのシンプルな統計ルールを使いました。

まず各章に登場する単語の「元の形(たとえば “歩く”“歩いた”をまとめて“歩く”と数える)」をすべて数え、よく出てくる単語どうしの組み合わせパターンも記録します。

そのうえで「A という章は “歩く” と “王” が多いタイプ」「B は “契約” と “祭り” が多いタイプ」といった “単語の指紋” を作り、各章がどのグループに属するかを分類させました。

「3つの執筆グループ」とは以下の通りです:

①申命記グループ(D) – 『申命記』に含まれる最古層の文書群(紀元前 630〜610 年ごろ)

②申命記史家グループ(DtrH) – 『ヨシュア記』から『列王記』までの歴史書(申命記史書)を編纂した文書群(紀元前 560 年ごろ)

③祭司グループ(P) – 『創世記』17章、『出エジプト記』25–31章、『レビ記』1–9章など祭司階級に属する著者たちによって書かれた文書群(前 540〜450 年ごろ)

テストの結果、AIモデルは分析対象の50章のうち、分類可能だった49章についておよそ84%の正解率で執筆グループを判別しました。

この数字は、これまでの研究で得られている精度とほぼ同じで、十分に信頼できるレベルだと言えます。

分析によれば、申命記グループ(D)と申命記史家グループ(DtrH)の文体は互いに非常によく似ており、祭司グループ(P)とは大きく異なることも明らかになりました。

この傾向は「申命記や歴史書を担った書き手グループは祭司文書の書き手と比べてお互い近い関係にある」という従来の聖書学の見解と一致しています。

特筆すべきは、文体の違いがごく基本的な語彙の使い方にまで現れていた点です。

例えば「いいえ」「どの」「王」といった一見ありふれた単語でさえ、グループごとに登場頻度や用法に差が認められました。

研究者たちは「各グループの書き手はそれぞれ異なる言語上の指紋(フィンガープリント)を持っていました。『いいえ』『どの』『王』のような単純で一般的な単語でさえもです。