われわれの開発した手法はそうした違いを精密に検出できます」と述べています。

最初の検証でモデルの有効性を示した後、チームは次にこのAIモデルを「著者が議論となっている」聖書の章へ適用しました。

代表的な例が、『サムエル記』上・下にまたがる「契約の箱」の物語です。

ダビデ王が聖櫃(契約の箱)を都エルサレムに運ぶこの物語について、多くの学者は長らく単一の筆者による連続した記述だと考えてきました。

しかしAIによる分析は異なる結果を示しました。

『サムエル記』の契約の箱物語を調べると、サムエル記下6章は申命記史家グループ(DtrH)の“書き手のクセ”と強く一致し、AI が示した一致度は 0.84(84 %)でした。

いっぽうサムエル記上4章の対応部分は、3つのどのグループともはっきり重ならないという結果になりました。

この発見は、両者は別々の作者による可能性が高いことを意味します。

実際、一部の聖書学者は以前から『この物語は異なる出典を繋ぎ合わせたものではないか』という複数著者説を提起していましたが、今回の結果はその見解を裏付ける客観的証拠と言えるでしょう。

上記の他にも、研究チームは旧約聖書内で著者がはっきりしない様々な箇所にモデルを適用しています。

たとえば『エステル記』、『箴言』の幾つかの章、『創世記』の族長物語(アブラハムやヤコブに関する部分)、『歴代誌』の一部などです。

モデルは各テキストの単語や表現パターンを分析し、3つの既知グループのうちどのスタイルに最も近いかを判定しました。

さらにこのモデルには興味深い特徴があります。ブラックボックス型ではなく、判定根拠となる語や表現を明示的に抽出し、研究者がその判断根拠を解釈できるようになっているのです。

アルオン・キプニス博士(イスラエル・ライヒマン大学)も「この手法の大きな利点の一つは、分析結果を説明できることです。すなわち、ある章が特定の文体グループに分類された理由となった単語や表現を特定できるのです」と述べています。