研究チーム(数学者、考古学者、聖書学者、物理学者、計算機科学者などで構成)は、主観的な思い込みや手作業でキーワードを選ぶことなく、計算機によって聖書の文体を客観的に分類できるかを追求しました。
AIが旧約を丸裸!“単語の指紋”で聖書のゴーストライターを特定

まず研究チームは、ヘブライ語聖書最初の9つの書(エンネアテウク)から、資料選定基準(語数が十分・層が単純・学界合意が大きい)を満たした50章を選びました。
この50章はすでに聖書学者の間で「3つの執筆グループ」に分類されているものです。
聖書研究の歴史
伝統的な信仰の世界(ユダヤ教‐ラビ文学や古いキリスト教神学)では、「モーセ五書」は「モーセが五書を一気に書いた」と信じられていました。しかし十九世紀の研究者たちは語り口や神の呼び名が章ごとに微妙に違うことに気づき、「別々の筆者が寄せ集まったのでは」と疑い始めました。たとえばある章では神をヤハウェと呼び、別の章ではエロヒムと呼ぶ。物語に登場する祭りや掟も並び順が食い違う。こうしたズレは、同じ小説を何人もがリレーで書き足していくうち、クセの違いが混ざり込んだように見えました。この発見がウェルハウゼンの資料仮説(J・E・D・P)につながり、「ヤハウェ派」「エロヒム派」「申命記派」「祭司派」という四つの資料が時間差で編集されたという骨格が示されます。二十世紀に入ると考古学が加わり、古代の陶片や碑文が掘り出されたことで、地名や王の年号が本文と照合されました。さらにヘブライ語そのものも変化する“生き物”だとわかり、「この綴りは前七世紀以前には現れない」といった語形のタイムスタンプが年代測定の手がかりになりました。こうして申命記の古層(D)が南ユダの宗教改革が盛んなヨシヤ王時代に書かれ、その後バビロン捕囚で国が滅んだ痛みを反映するかたちで歴史叙述(DtrH)が追加され、最後に帰還した祭司層が礼拝規定を補う祭司資料(P)を編み込んだ、という三段階編集モデルが固まりました。