新たに開発されているインプラントは、従来のものとは決定的に異なる構造を持っています。

まず、インプラントの外側には生分解性のゴム状ナノファイバー層がコーティングされています。

この層には幹細胞と、それが神経細胞に変化するのを助ける特殊なタンパク質が含まれています。

そしてインプラントは、骨ではなく軟組織を通じて固定されます。

初期はやや小さめのサイズで挿入され、時間の経過とともにナノファイバー層が分解しながら膨張し、歯槽(歯がはまり込む顎骨のくぼみ)の内壁に密着して安定するのです。

この過程で幹細胞は神経細胞へと分化し、歯槽壁に残された神経終末と再接続される可能性があります。

つまり、かつて存在していた歯の神経ネットワークが部分的に再構築されるのです。

この仕組みは、従来のインプラントにはなかった「感覚の回復」への扉を開くものです。

新しいインプラントは治癒が進むにつれて、抜歯によって失われていた口と脳のコミュニ―ションを復活させ、自然の歯とほぼ同じような「歯ごたえ」を感じ取るのに役立つはずです。

では、本当にこのようなインプラントの実現が可能なのでしょうか。

ラットの実験を見てみましょう。

ラット実験にて新インプラントの移植に成功!結合組織が形成される

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ラット実験では埋め込みと固定に成功。今後はマウスの感覚を調査 / Credit:Jake Jinkun Chen(Tufts University)et al., Scientific Reports(2025)

研究チームは、このスマート・インプラントをラットの下顎前歯に移植する実験を実施しました。

使用されたインプラントには、前述の幹細胞と成長因子を含むナノファイバー層が施されており、手術は体への負担をできるだけ少なくして実施されました。

術後6週間の経過観察では、インプラント周囲に骨組織ではなく柔らかい結合組織が形成され、従来のインプラントでは見られない「軟組織による固定」が成功していることが確認されました。