しかし現場での対策は進んでおらず、特に中小企業では対応が遅れているのが現状です。
その理由のひとつは、「メンタル不調が実際にどれほどの損失を生んでいるのか」が定量的に示されていなかったことにあります。
調査で見えた驚くべき「経済損失の大きさ」
研究チームは今回、この課題に真正面から取り組みました。
研究では、全国の労働者2万7,507人を対象に、性別・年齢・地域ごとに層化抽出を行い、インターネット調査を実施。
調査では「気分が沈む」「眠れない」といったメンタル不調の有無を尋ね、症状がある場合には、その期間中の仕事の「量」と「質」の低下を自己評価してもらいました。
この情報をもとに、プレゼンティーズムとアブセンティーズムによる年間の「損失日数」を算出し、性別や年齢別の平均賃金などと組み合わせて経済的損失額を推計しています。
その結果、プレゼンティーズムによる経済的損失は約4.67兆円、アブセンティーズムによる損失は約0.19兆円。
合計すると、日本全体で年間約4.8兆円という莫大な損失が明らかになったのです。
特に20~30代の女性でメンタル不調の報告率が高く、若年層の女性に対する対策の必要性も浮き彫りになっています。
さらに興味深いのは、プレゼンティーズムの損失額がアブセンティーズムの25倍以上に達していた点です。
これは日本社会において「体調が悪くても休みにくい」という職場文化が影響しているとみられています。

本研究は、メンタルヘルス対策が単なる個人の健康管理ではなく、社会全体の経済的課題であることを強く示唆しています。
厚生労働省や経済産業省では「健康経営」や「働き方改革」を推進していますが、今回の研究結果はその重要性を裏付けるものです。
実際、世界保健機関(WHO)の報告では「うつ病や不安障害への治療への1ドルの投資は、健康と生産性の改善によって4ドルのリターンをもたらす」とされています。