実際にこの現象を確認するには、ペタワット級(1ペタワット=1千兆ワット)の超高出力レーザーを複数同時に真空中で交差させる必要があり、技術的ハードルが非常に高かったのです。

しかし近年になってようやく、英国(Vulcan 20-20)や欧州(ELI)」、中国(SEL)、アメリカ(OPAL)において次世代の超大型レーザー計画が動き始めており、世界各地でこの光子-光子散乱を初めて実験的に確認しようという試みが計画されています。

特にアメリカのOPALでは、この現象の検出が最優先の旗艦実験テーマの一つに選ばれているほどです。

こうした背景の中、オックスフォード大学の研究チームは、実験に先立ちシミュレーションによって「真空から光が生まれる」現象の詳細を可視化し、理論と実験の架け橋となる知見を提供することを目指しました。

果たして量子電磁力学が予言してきた「光が無から現れる」現象は確認できたのでしょうか?

3本レーザーが“無”を照らすと真空が発光した

3本レーザーが“無”を照らすと真空が発光した
3本レーザーが“無”を照らすと真空が発光した / この図は「真空四波混合」と呼ばれる量子現象をイメージ化したもので、背景の漆黒は電子も原子もない“理想的な真空”を表しています。画面の左右と右上から伸びる赤・緑・緑の三本の光線がペタワット級の超高出力レーザーパルスで、色の違いはそれぞれの波長(赤外と可視の中間、可視域の緑付近)を示しています。これら三本のレーザーが中央の一点で正確に交差すると、量子ゆらぎの海である真空がわずかに分極し、非線形光学結晶のような性質を帯びます。その結果、エネルギーと運動量のつじつまを合わせる形で“第四の光”が誕生し、図では右下へ伸びる紫がかった新しいビームとして描かれています。この紫の光は三本の入力光が真空を介して相互作用した「おつり」で生じたもので、光子同士が真空内で散乱した証拠となります。Credit:Zixin (Lily) Zhang