シミュレーションでは、真空空間に波長0.5 µm(緑色〜シアン域)の高強度レーザー光2本と、波長1 µm(近赤外域)のレーザー光1本を互いに交差するよう照射し、その焦点領域で何が起こるかを追跡しました。
その結果、仮想粒子だらけの量子真空が強烈な光の場によって分極され、ごくわずかながら光子同士が散乱を起こして、新たに4本目の紫外線パルス(約0.33 µm)が特定の方向に飛び出す様子が確認されたのです。
つまり3本のめちゃくちゃに強いレーザー光をクロスさせたら、真空から想定外の光の束(パルス)が出てきたわけです。
シミュレーションによる予測は既存の理論モデルとも整合しており、現象の起こり方を時間的・空間的に“スローモーション観察”できたことで、研究チームは自信を持って実験に臨めるとしています。
さらに研究チームは計算結果を解析し、仮想的に発生した4本目の光の強度や空間分布、発生までのタイムスケールなどを定量的に調べました。
すると興味深いことに、レーザービームの配置に微妙なずれ(非対称性)があると生成される光の形状にゆがみ(いわゆる乱視的な歪み)が生じることも突き止めました。
筆頭著者でオックスフォード大学大学院生のジシン・ザンさんは、この成果について「私たちのプログラムによって、それまで手が届かなかった量子真空内の相互作用を、時間分解能付きの3次元ウィンドウとして覗き見ることができます」と説明しています。
言い換えれば、本シミュレーションにより真空で起こる不可思議な現象の一部始終を可視化でき、理論上“見えない”はずの過程を丸ごと解析できるようになったのです。
このようにして得られた知見は、実験家が適切なレーザー光の形状や強度・タイミングを設定し、微かな信号を検出するための手掛かりとなるでしょう。
量子真空を操る時代の扉は開くか
「これは単なる学術的な好奇心に留まるものではありません——今まで理論的にしか語れなかった量子効果の実験的確認に向けた大きな一歩なのです」と、本研究の共著者であるピーター・ノリーズ教授(オックスフォード大学物理学科)は強調します。