この境界面は時空の端(遠方の無限遠)に相当し、そこでの重力波のエネルギー流出を解析することで系全体の「光度」(単位時間あたりのエネルギー放出量)を評価します。
次に、この重力場のモデルに量子論的な扱いを導入しました。
具体的には、重力の作用(アクション)に特殊な項を加えて非摂動的な量子化を行い、重力波の位相空間(とり得る状態の空間)の構造を解析しました。
難しい内容ですが、一言でいうと「重力波を量子的に扱ったら何が起きるか」を計算したのです。
その結果、重力波として運び出されるエネルギーのスペクトル(とり得る出力の値)が、ある値を境目に性質が一変することが明らかになりました。
その境目こそがプランクパワー(約3.63×10⁵² W)に対応しており、ここで出力の振る舞いが「それ以下では離散的(連続的な値ではなく飛び飛びの値しか取らない)」のに対し、「それ以上では連続的(あらゆる値が取り得る)」に分かれるのです。
量子論ではエネルギーなどの観測量が離散的な値(量子)になるのが通常ですが、プランクパワーを超える領域ではそれが崩れて連続になってしまうという、一見奇妙な結果です。
しかしヴィーラント博士は、このプランクパワーを超える連続スペクトルの状態は物理的に実現不可能であると結論付けました。
そのような状態では、数式上は「時空に収まりきらない」現象が起き、重力場に「カスプ(焦点特異点、caustic)」と呼ばれる異常な歪みが生じてしまいます。
これは時空が無矛盾に存在するための条件(遠方で平坦になる、など)に反するため、結局そのような解(状態)は現実の宇宙では起こり得ない、というのです。
換言すれば、プランクパワーを上限とする「出力の壁」が理論的に証明されたと言えるでしょう。
今回の結果は、D=4次元(通常の3次元空間+時間の宇宙)でのみ成り立つことも注目すべき点です。
高次元の仮想的な宇宙ではプランクパワーに相当する上限は一般には導くのは困難とされています。