エムスリーキャリア、開発のきっかけ
̶̶HOTEL de DOCTOR 24開発のきっかけは何だったのでしょうか?
「厚⽣労働省や観光庁の調査で、訪⽇外国⼈の約 4%が旅⾏中に体調不良を経験しているというデータがありました。この数字を⾒て、私たちは『必要な医療サービスへのアクセスが⼗分に確保されていないのではないか』と強く感じました。
実際、医療機関やホテルへのヒアリングを重ねる中で、『⾔語の壁』や『深夜・休⽇の対応困難』といった現場の悩みが数多く寄せられました。観光業界がインバウンド需要の回復・拡⼤を⽬指す中で、旅先での安⼼をどう⽀えるかという課題は、⾮常に⼤きな意味を持っています。
こうした空⽩を埋めるために、医療側と宿泊側、双⽅にとって負担の少ない形でサービスを提供できないか──。その発想から⽣まれたのがHOTEL de DOCTOR 24です」(岩井氏)
̶̶サービスの強み・差別化ポイントは?
「HOTEL de DOCTOR 24には、⼤きく3つの強みがあります。24時間対応、22⾔語での医療通訳、導⼊施設の負担ゼロ設計です。特にホテル側が費⽤負担なく導⼊できる点を評価いただいています。
また、医療を受ける際の不安を最⼩限に抑えるため、ホテル・医師・通訳がシームレスにつながる運⽤設計にも⼒を⼊れました。緊急時には問診内容がホテルにも共有され、必要に応じて翻訳もされるなど、現場の混乱を防ぐ仕組みが整っています。
さらに、⽇本ではオンライン診療がまだ⼀般的ではない⼀⽅、海外では旅先でもオンラインで医師に相談する⽂化が定着しており、その期待に応えられる体制づくりが重要でした。実際、医師の公募を⾏った際には、『留学経験を生かしたい』『育児との両⽴ができそう』と⼿を挙げてくださる先⽣が多く、医療従事者側のニーズを感じています」(同)
̶̶実際にあった印象的な事例はありますか?
「体調を崩された外国⼈旅⾏者がフライトの変更を余儀なくされ、航空会社から診断書の提出を求められたことがありました。私たちはオンライン診療で対応し、英語の診断書を即⽇発⾏。旅⾏者は無事に⼿続きを完了することができました。
別のケースでは、2時間後に搭乗予定の旅⾏者に対し、オンライン診療を⾏った医師が、成⽥空港の薬局で購⼊できる市販薬を具体的に指⽰。⽇本語で薬の名前を書いたスクリーンショットを患者に送り、それを薬局で⾒せる形で無事⼊⼿できました。
いずれも、『旅先で今すぐ必要な⽀援』に対し、制度や⾔語の壁を越えて対応できた象徴的な事例だと思っています」(同)
̶̶事業としての成⻑性・収益性はどう⾒ていますか?
「現状では、1⽇あたりの診療件数はまだ限られていますが、⽉間1000件規模の利⽤を⽬指して拡⼤中です。そのためのフロー整備も着実に進めています。
また、ユーザーが申し込んでから診療を開始できるまでの待ち時間を短縮する開発にも注⼒しており、今後は利便性のさらなる向上が収益にも直結していくとみています」(同)
̶̶このサービスを通じて、社会にどんな貢献をしたいですか?
「旅の不安を取り除く仕組みこそが、真の観光⽴国を⽀える基盤だと信じています。今後は、観光協会や空港、主要駅などとの連携も視野に⼊れ、より多くの旅⾏者が安⼼して⽇本を訪れられる環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。
特にホテルに限らず、駅の中や観光拠点など旅の動線上で、気軽に診察が受けられる仕組みを整えていくことが次の⽬標です。⽇本全体の安⼼インフラとして、このサービスを根づかせていきたいと思っています」(同)
海外で体調を崩す――それは、どれほど⼼細く、不安な経験だろう。だからこそ、スマホの向こうから聞こえる「⼤丈夫ですよ」の声は、きっと世界中の旅⼈にとって、最もありがたい⽇本語になるに違いない。
(構成=昼間たかし/ルポライター、著作家)