●この記事のポイント ・インバウンドが急増するなか、旅行中に体調を崩した外国人の対応にホテル関係者が苦慮するケースが少なくない。旅行者も、慣れない異国で病院に行くことを躊躇している間に深刻な病気になることもある。 ・そんな事態において大きな解決策となり得るサービスが注目を浴びている。ホテルなどの宿泊施設にいながら、オンラインで診療を受けられるというもの。その開発企業と導入企業の背景を深掘りする。
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「発熱した旅⾏者が、夜中のホテルで困り果てる」。そんな事態に対応するため、現在、⻄武プリンスホテルズ&リゾーツをはじめとする全国23都道府県119の宿泊施設で、訪⽇外国⼈向けの24時間オンライン診療サービス「HOTEL de DOCTOR 24」の導⼊が進んでいる。
最⼤の特徴は、スマートフォン1台で医師につながり、22⾔語に対応した医療通訳を介して診療が受けられるという点だ。夜間や早朝、近隣の医療機関が閉まっている時間帯でも、旅⾏者は部屋から⼀歩も出ずに適切な医療を受けられる。現場のホテルスタッフからは、「夜間対応の懸念が軽減された」という声も上がっている。
「コロナ前は、⾼度な治療や検診を⽬的とした医療ツーリズムが注⽬されていました。しかし、いま本当に求められているのは、旅⾏中に体調を崩しても安⼼できるという⽇常的な医療アクセスです。旅の安⼼をどう⽀えるかは、観光⽴国にとって避けて通れないテーマだと感じました」(エムスリーキャリア 事業開発部 グループリーダー 岩井眞琴氏)
実は、訪⽇外国⼈の約4%が滞在中に体調不良を訴えている。そしてその6割が⾵邪症状や熱の症状だ。しかし、彼らの多くは⾔語の壁に不安から、病院を訪れることなく我慢してしまう(令和5年度「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」結果より)。
その結果、病状が悪化したり、ホテル側で対応に追われたりすることも後を絶たない。
「特に深刻だと感じているのは、体調不良の訴えがあっても正確に聞き取れないという現場の不安です。⾵邪程度かと思っていたら実は重症だった、というケースもあり、対応判断に時間がかかってしまう。その点、HOTEL de DOCTOR 24は、医療通訳を介して即座に医師につなげることで、スタッフの判断負担を⼤幅に減らすことができています」(岩井⽒)
⻄武プリンスホテルズ&リゾーツでは、全国54施設に同サービスを導⼊。背景には、医療選択肢を増やすことで、訪⽇外国⼈客にとって安⼼して宿泊できるホテルチェーンとして、さらなる環境を整備するという狙いがある。
「体調不良という特殊かつ緊急性の⾼い状況において、⼀⼈ひとりに寄り添ったサービスを提供できることは、ホスピタリティの向上につながると同時に、従業員のモチベーション向上にも寄与しています」(⻄武・プリンスホテルズワールドワイド広報部 藤⽥有咲⽒)
また、宿泊施設側にとって導⼊はオペレーション不要・費⽤負担ゼロ。この低ハードルも広がりを後押ししている。
現在開催されている⼤阪・関⻄万博では、約350万⼈の訪⽇外国⼈が来場すると⾒込まれており、HOTEL de DOCTOR 24はその先端インフラの⼀翼を担うと期待されている。
実際、エムスリーキャリアでは⼤阪万博をインバウンド需要拡⼤の転機と捉え、サービス⽴ち上げのタイミングを意図的に早めたという。
「⼤阪万博をきっかけにインバウンド需要が⼀気に⾼まると⾒て、早期の⽴ち上げを決めました。今後も、あらゆる場⾯での導⼊を広げていきたいと考えています」(岩井⽒)
彼らが⾒据えているのは、ホテルにとどまらない旅の安⼼インフラとしての展開だ。観光施設や空港・駅といった動線上にも対応拠点を広げ、「どこにいても相談できる」という安⼼感を、旅の標準装備にしようとしている。
そこで、HOTEL de DOCTOR 24について全国54施設への導⼊、拡⼤を予定している⻄武プリンスホテルズ&リゾーツ、同サービスを展開しているエムスリーキャリア、それぞれに話を聞いた。
