一方で、複数の筋肉・関節を使う複雑な種目では、高重量・低重量いずれの場合も全身的な適応(筋肥大やテクニックの向上など)が作用し、結果として筋力の伸びに大差がなくなると考えられます。
実際、先行研究でも未熟練者に対しては高重量の方が筋力向上に有利とされてきましたが、熟練者では低重量でも工夫次第で同等の効果が得られる可能性が示されています。
筋力発揮のメカニズムは一様ではなく、筋肥大によるもの、筋線維の動員効率が上がるもの、神経系の順化によるものなど様々ですが、軽負荷トレーニングは主に筋持久力や筋肥大を通じて間接的に筋力を底上げし、高負荷トレーニングは神経的適応で直接的に筋力を引き出す――といった違いがあるのかもしれません。
この点については今後の研究課題ですが、少なくとも「高重量でなければ筋力はつかない」という伝統的な信念は必ずしも当てはまらないことを本研究は示唆しています。
重いバーベルを持ち上げるのは怖い、器具がない、自宅で手軽に鍛えたい――そうした事情でトレーニングを諦めていた人々にとって、今回の結果は希望を与えるものです。
実際、著者らは「筋肉を大きくするのに重い重量は必ずしも必要ではない。これはアスリートだけでなく一般の人々にも当てはまる重要な発見だ」と述べています。
筋肉さえ疲れるまで追い込めば、自分にとって20〜30回で限界が来る重さ(例:5 kg前後の人もいる)でも効果を得られる可能性があります。
私たちの身体は思っているより柔軟で、多様なアプローチに適応できるようです。
「ローマに通じる道は多い」ということわざがありますが, 研究チームも今回の成果をまさにこの言葉で表現し、異なる負荷設定でも目標に辿り着けることを強調しています。
筋肉を太く強くする方法は一つではありません。
自分に合った道を選び、しっかり継続することが肝心だと言えるでしょう。
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