つまり症状が軽度であったり、軽減されたとしても、会社の雇用等ではなかなか受け入れてもらないというのが、現在のADHDの人たちを取り巻く社会的状況なのでしょう。
ADHDという“見えにくい壁”に、社会がどう向き合うべきか
この結果にはデンマークという国の特性も関係しているかもしれません。
北欧諸国は、税金が高い代わりに障害の有無にかかわらず、すべての国民に対して手厚い医療・教育・福祉の支援制度が整備されていることで知られています。
ADHDを持つ人が、必ずしも無理に働かなくても生活できるだけの社会保障を受けられる環境にあるため、就労率の差がより顕著に現れた可能性もあります。
しかしながら、日本でも近年、発達障害のある若者が就職や学業に困難を抱えやすいことは、本人の体験談や支援現場から繰り返し報告されています。
たとえ福祉制度に違いがあったとしても、ADHDの人が30歳時点で就労できない人が多いという問題は、日本においても決して“他人事”ではないということを、この研究結果は示唆しているのです。
「就職できない」「学校を卒業できない」という表面的な問題の背後には、こうした脳の特性の理解と、それをサポートできていない社会の構造が複雑に絡み合っています。
特に注目すべきなのは、早く診断され、適切な支援を受けた人ほど、その後の人生でより良い成果を出せているという点です。
これは、大人になってから投薬治療を受けた人にあまり改善が見られなかったことと併せて考えると、ADHDは単純な治療だけでなく、教育や就労の場における支援体制、理解ある人間関係、社会的な配慮といった多面的な支援が必要なことを示しています。
近年は世界的にADHDと診断されている人が増えていることが報告されています。こうした報告と併せて考えると、社会は上手く噛み合わない人を締め出すのではなく、社会全体でその支援、受け入れ方を考えることが求められていくでしょう。