しかしシャラ氏の場合、二次元的な媒体に移った顔は正常に識別できるという特性があるため、同じ人を目の前にして写真と比較することで、顔のどの部分がどんな比率で歪むかを、シャラ氏視点から正確に知ることが可能になると考えたからです。
このアイディアは今回の研究にそのまま取り入れられました。
調査にあたってまず、男女の被験者の写真が撮影され、シャラ氏の目の前に被験者たちが写真と一緒に並べて提示されました。
そしてシャラ氏に顔のどの部分がどの程度歪んでいるかをリアルタイムで教えてもらい、得られた結果をコンピューターグラフィックスで表示しました。
結果、シャラ氏の視点からは上の図のように、被験者たちの顔が歪んでいることが示されました。
これまで相貌変形視の患者たちの多くが、顔の歪みの原因が、統合失調症にみられる幻覚と診断され、誤って統合失調症の薬が投与されていました。
また相貌変形視を患っている人は、顔の歪みが精神疾患のせいだと他人に思われるのを恐れた、医師に話さないことも珍しくありませでした。
研究者たちは今回の成果が知れ渡れば、症状の実態把握が進むだけでなく、相貌変形視の患者たちに適切な病気に関する知識やケアができるようになると述べています。
次のページでは「顔に限定する歪み」が起こる仕組みを、症例と共にみていきたいと思います。
脳のどこにどんな変化が起きたら「顔に限定した歪み」が現れるのでしょうか?
相貌変形視の患者の多くは脳の視覚領域に異常があった
なぜ顔だけが歪んでみえるのか?
その仕組みを理解するには過去の症例が大きなヒントになります。
2009年に報告された24歳の女性(主婦)のケースでは、出産後に突然重度の片頭痛と右半分の視野がぼやけるようになり、それ以降、人間の顔の左半分のパーツが滅茶苦茶な位置に配置されてみえるようになってしまいました。
研究者たちが女性の脳を調べたところ、左脳に損傷があることが判明します。