同じ顔にかんする認識障害として、人の顔を覚えられない「相貌失認」が知られていますが、相貌変形視とは異なる病気であると考えられています。
この症状を発症した患者では、相貌失認とは違って顔そのものは正確に認識でき、顔だけで誰かを判断したり、喜怒哀楽などの表情を読み取ることも可能です。
また人間の顔以外の物体(建物や車など)は、全て歪みなく正常に認識することが可能です。
しかし人の顔に限定して、ある種の幻覚が起こるようになり、顔の形・肌の質感・目や鼻などのパーツの位置・色などが歪んで見えるようになってしまいます。
これまで報告された半数のケースでは歪みが顔全体に及び、残りの半分のケースでは歪みは顔の左右のどちらか半分に限られています。
幸いなことに、相貌変形視になったほとんどの人は、数日から数週間で回復することが知られています。
一方で、一部の人では病状が何年も続くことがありました。

残念なことにシャラ氏は後者であり3年前(31カ月前)のある日を境に、人々の顔全体が歪んでみえるようになってしまい、現在でも症状は続いています。
ただ顔の歪み方のパターンは誰でも同じであるため、シャラ氏は個人を識別することはでき、表情も区別可能でした。
またシャラ氏の症状にはもう1つ興味深い特徴がありました。
シャラ氏の場合、顔が歪んでみえるのは人間の顔を直接目で見た場合のみであり、写真や映像など二次元的な媒体に映る顔は、相貌変形視を発症する前と同じ、歪みがないものだったのです。
今回、ダートマス大学の研究者たちは、このシャラ氏の特性に着目しました。
これまで相貌変形視にかんしていくつかの研究がなされてきましたが、患者視点で顔がどのように歪んでいるかを詳細に知ることは困難でした。