人間の顔だけ歪んで見えます。

「相貌変形視(PMO:そうぼうへんけいし)」は、ある日を境に人間の顔が悪魔のように歪んで見えるようになってしまうという特殊な症状です。

ただ、この症状は患者の申告に頼っている部分が多く、実際どのような視覚的変化が起きているのか、その詳細は明らかになっていませんでした。

しかし米国のダートマス大学(DC)の新たな研究は、この「相貌変形視」の症状について、はじめて患者視点で人の顔がどのように変化しているか、詳細に視覚化することに成功しました。

研究対象となった58歳の男性は人間の顔を「直接みたときだけ」歪みが生じ、写真など二次元的な映像の顔は普通に認識されるという、極めて奇妙な症状をもっていました。研究チームは彼のこの特殊な症状を利用して、相貌変形視の患者には人の顔がどの様に見えているのかを明らかにしたという。

相貌変形視について具体的な見え方の変化が示されたことで、この奇妙で恐ろしい病気の実態にかんする人々の理解が大きく前進すると期待されます。

しかしなぜこの病気は、人の顔を直接見た時だけ歪みが生じてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年3月23日に五大医学雑誌の1つとして知られる『The Lancet』にて掲載されました。

目次

  • ある日を境に周りの人々が変わってしまった男性
  • 相貌変形視の患者の多くは脳の視覚領域に異常があった
  • 相貌変形視は赤い光で悪化して緑の光で正常化する

ある日を境に周りの人々が変わってしまった男性

ある58歳の男性(シャラ氏)の世界は、3年前を境に激変しました。

周りにいる全ての人間の顔が、まるで物語に登場する悪魔のように大きく歪んで見えるようになってしまったのです。

「ある朝目覚めると、世界中の誰もがホラー映画の生き物のように見えたらと想像してみてください」

シャラ氏は当時の戸惑いについて、そう述べています。

シャラ氏に現れた症状は「相貌変形視(PMO:そうぼうへんけいし)」と呼ばれる非常に珍しい神経学的視覚障害であり、これまで報告されたケースは80件あまりしかありません。