研究の結果、驚くべき傾向が明らかになりました。

同じ年齢(たとえば81~85歳)でも、より若い世代(生まれた時代が後の人)ほど、認知症の有病率が低いことがわかったのです。

たとえばアメリカでは、1890~1913年生まれの人のうち25.1%が認知症を発症していましたが、1939~1943年生まれでは15.5%まで減少していました。

ヨーロッパやイギリスでも同様の傾向が見られ、とくに女性での減少が顕著でした。

3つの長期パネル調査データ(HRS[アメリカ]、SHARE[ヨーロッパ]、ELSA[イギリス])それぞれについて、出生年を基準とした認知症のリスクの変化/Credit: Xiaoxue Dou et al., JAMA Network Open (2025)

このように、若い世代ほど認知症を発症する割合が低くなっている背景について、論文では次のような世代の変化が要因になったと考察されています。

たとえば、近年では喫煙率の低下や、血圧・糖尿病といった慢性疾患への医療的対処が大きく改善されており、こうした身体の健康状態の改善が脳の健康にも良い影響を与えていると考えられています。

また、栄養状態の向上や、鉛などの神経に悪影響を及ぼす環境毒への曝露の減少も、子どもの頃からの神経発達に好ましい環境をもたらしてきました。聴力や視力といった感覚の衰えに対しても、補聴器や眼鏡などで早めに対応できるようになったことが、認知機能の維持に一役買っている可能性があります。

こうしたなかでも、特に大きな影響を与えていると考えられているのが教育の普及です。

20世紀後半以降、とくに女性を含む多くの人が高等教育を受けるようになり、それによって脳が日常的に刺激される機会が増えました。こうした経験の積み重ねが、年を重ねても認知機能を維持する「認知的予備力(cognitive reserve)」を高めると考えられているのです。