B to B事業では祖業の音楽配信を出発点に、店舗経営の川上から河口まで伴走

 コンテンツ配信のU-NEXTについて、西本氏は今後の安定成長に自信を見せる。では、それ以外のセグメントについての見通しはどうだろうか。

「コンテンツ配信がB to C(対消費者ビジネス)であるのに対して、これ以外の店舗・施設ソリューション、通信・エネルギー、金融・不動産・グローバルの3セグメントはB to B(企業間ビジネス)にあたります。この3セグメントは個々独立で動かすのではなく、シナジー効果を発揮して着実に成長できていると考えています」

 店舗・施設ソリューションのうち、店舗向けは創業以来の音楽配信サービスに加えて、新規オープン店舗に対してキャッシュレスの機材やPOSレジ、wi-fiなどの店舗運営ソリューションをクロスセルするビジネス。施設向けは、ビジネスホテルや総合病院のフロントに並んでいる自動精算機の製造販売で、国内トップシェアを誇っている。このセグメントは特に利益率が高く、同社のドル箱というべき事業分野となっている。

「店舗ビジネスの成長性について言うと、当社の推計では、日本国内のあらゆる店舗を合計すると、約400万店舗が存在しています。この中で、当社の既存顧客がおよそ83万店舗です。つまり、それ以外の300万超の店舗が当社の想定顧客、つまり成長余地と考えられるわけです。とはいえ、実際には300万超の店舗の多くは、当社以外のサービスを利用されています。ということは、そこに切り替え営業をかけていくのは効率が悪い。サービスを乗り換えれば店舗内のオペレーションも変わりますので、スイッチングのハードルは非常に高いのです。

 そこで当社は、常に起こっている店舗の新陳代謝のタイミングを逃さず、商機を捉えることに注力しています。実は毎年、400万店舗のおよそ2%にあたる約7万店が閉店となり、同時に後継テナントとして約7万店が新規オープンしているんです。この新店のオーナー様はゼロベースで導入するサービスを検討されるので、ここに当社の幅広いサービスをクロスセルする大きな可能性があります」

 この7万店に対して同業に先んじてコンタクトを取る手段として、同社の全国展開で活躍する約2000名の営業マンと約1000名のフィールドエンジニアが、日々のサービス提供活動の中で、目視で新規オープンする店舗を把握しているという。これに加えて、不動産仲介会社や内装業者、税理士法人など、全国で約1万8000社のパートナーネットワークを構築し、情報収集に努めている。新規に開業するオーナーがパートナーと接触した際に情報を連携してもらい、同社が営業をかけてサービス導入に至った暁には、既定の手数料が支払われる。このような地道な営業活動を積み上げ、B to B全体として成長軌道を継続していきたいと西本氏は語る。

 同社のB to B事業の中で、金融・不動産・グローバルは昨年に新しくセグメントとして設けられたもの。その目論見と成長性についてはどう考えているのだろうか。

「こちらはまだ収益規模は当グループの中では小さいのですが、セグメントとして独立させることで、今後注力して育成していくという旗を立てた形です。そもそも当社のB to Bサービスは、業務の効率化や生産性向上に資するソリューションが主力となっています。ただ、少し引いた視点で捉えると、オーナー様が店舗運営、経営をされるにあたって、まずはテナントとして入る箱、つまり不動産の確保が必要です。同時に開業資金という部分で、金融との接点も絶対的に必要になってきます。そこで、当社が持っている盤石の顧客基盤に対して、店舗運営ソリューションにとどまらず、川上で必要になる不動産と金融のサービスも併せてご提供していくために、新規セグメントを設定しました。

 グローバルに関しては訪日観光客、インバウンド需要に対するビジネスを構築していく取り組みです。将来的には訪日観光客6000万人を目指すという国の方針が出ていますから、その巨大なインバウンド需要に当社のビジネスをいかに絡めていくか、という観点でビジネスプランを練っています」

 かつてのソニーやセブン&アイHDなど、一般の事業会社が金融に進出して成功をおさめた例は多い。既存顧客とインフラがあり、そこに求められる金融サービスを提供できるという点ではU-NEXT HDも同様の立場で、金融・不動産・グローバル事業の展望は非常に明るいといえそうだ。