判事は、「一般市民にはトムソン・ロイターによる法の分析を享受する権利はない。著作権は優れた法律リサーチツールのように社会に役立つものの開発を促す。開発者はそれに見合った報酬を受ける権利がある」と説明した。

以上により、判事はロスによるヘッドノートの使用はフェアユースに該当しないと判断し、ロイターの申立てに対して略式判決を下した。

判決の影響

第1要素の分析で判事は、ロスが競合するリーガルリサーチ用ツールの開発を容易にするためにヘッドノートを使用したため、変容的利用にあたらないとした。そして、冒頭でも紹介したとおり、「AIを取り巻く環境が急速に変化していることから、今回の事案は非生成AIを対象にしていることを読者に注意喚起したい」と付言した。

確かにロスはロイターのヘッドノートを利用して、ウェストローと直接競合するサービスを開発した。しかし、大規模言語モデル(LLM)は様々な情報源からの大量のデータを使用して生成AIを訓練している。

裁判所がフェアユースを判定する際、最も重視する第4要素の原著作物の市場を奪うかどうかについても、ロスのサービスはウェストローの実質的代替物となることを目的としているので、ロスの市場を奪うことになるとした。

参考までに日本法では、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」を認めた著作権法30条の4は、ただし書きで「著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りでない」としている。フェアユースのない日本でも、このただし書きが適用され著作権侵害とされる可能性は高い。

もともと、フェアユースの判定は事実に依存する部分が多いため一概には言えないが、以上から、40件に上る生成AI関連訴訟では裁判所が異なる判断を下す可能性は十分ある。