実際、アフリカ諸国や東南アジアの国々では、「脱炭素=善」という構図に疑問を持つ声が強まっている。国際会議の場でも、グローバルサウスの代表が「我々は貧困から脱却するためにエネルギーが必要だ」「環境正義というなら、先進国がまず責任を果たすべきだ」といった主張を繰り返している。また、炭素削減のための資金援助が十分に提供されないことへの不満も根強い。単なる言葉ではなく、実質的な支援が求められているのである。
4. EUの理念先行政策に対する批判
こうした現実を前に、EU内でも理念先行の政策に対する批判が高まりつつある。ドイツやフランスでは、産業界からの反発が強まり、「過度な規制が競争力を削ぐ」との懸念が共有されている。農業政策においても、過度な環境規制が農家を圧迫し、抗議デモが頻発しているのが現状だ。特にオランダでは、家畜の窒素排出規制に端を発する大規模な農民デモが発生し、政権の環境政策に影響を与えるまでに至っている。
今後、EUが現実と理念のバランスをどのように取り直すかは、世界経済や国際政治において重要な意味を持つ。理念は重要だが、それを実現するための戦略や段階的アプローチがなければ、空回りするだけである。さらに、社会的受容性やコスト負担の公平性といった視点も加味しなければ、政策は逆に分断と不信を生むことにもなりかねない。
一方、グローバルサウス諸国は、徐々に自立の姿勢を強めている。中国、インド、インドネシア、ベトナム、サウジアラビア、ナイジェリアなどは、国内の資源を活用しつつ、現実的な気候政策を選択している。EU的な「脱炭素一辺倒」に従わず、「成長と環境のバランス」を掲げた独自路線が鮮明になりつつある。これらの国々は、技術移転や資金支援を戦略的に求める一方で、自国の主権的判断を尊重する形での持続可能性を模索している。
おわりに
結局のところ、世界は一枚岩ではない。理念と現実の間で揺れるEUの姿は、かえってグローバルサウスにとっての警鐘となり、「自国の国情に即した持続可能性」を模索する契機となっている。今後の国際秩序は、EUの理想主義とグローバルサウスの現実主義との間で再構築されていくのかもしれない。鍵となるのは、互いの価値観を尊重し、多様な道筋を許容する「多極的共存」の姿勢であろう。