EUのエリート層は、「グリーン」や「持続可能性」という大義名分を掲げながらも、足元のエネルギー安定供給や産業競争力の維持といった基本的な国益を見誤ってきたのではないか。

2. 海外に生産拠点を移すEUの主要企業

こうした理念と現実の乖離は、具体的な経済行動にも表れている。たとえば、ドイツの化学大手BASFは、エネルギー価格の高騰が収益を圧迫したため、ドイツ国内の製造能力を縮小し、中国などエネルギーコストの安い地域へ生産拠点を移すと発表した。

同様に、鉄鋼大手のアルセロール・ミッタル(ArcelorMittal)も、高コスト構造を理由にドイツやベルギーでの生産縮小を決め、一部をインドなどにシフトし始めている。また、オランダの肥料メーカーYaraは、電力コスト上昇により国内工場の操業停止を余儀なくされ、一部生産を北米に移転した。

加えて、スペインのセメント業界では、炭素価格の高騰により工場の採算が合わなくなり、モロッコやトルコへの生産移管が検討されているという報道もある。これらの事例は、エネルギー政策の失敗が直接的に企業の国際的競争力を損ない、産業の空洞化を招くリスクを現実のものとして示している。

3. グローバルサウスの反応

このようなEUの政策は、国際的にも広範な影響を及ぼしている。特にグローバルサウスと呼ばれる開発途上国は、EUの圧力や国際的な枠組みによって、自国の成長に必要な化石燃料の使用を制限されている。多くの国が、石炭、天然ガス、石油などの化石資源を豊富に賦存しているにもかかわらず、「脱炭素圧力」により開発が妨げられている。

さらに、EUは炭素国境調整メカニズム(CBAM)などの制度を導入し、自国の製品と競合する途上国製品に炭素コストを上乗せする形で貿易のハードルを上げている。これは一種の「環境保護」を名目とした保護主義政策であり、発展途上国からは「植民地主義の現代版」との批判もある。途上国にとっては、脱炭素規範の押し付けと同時に、自国産業の成長を妨げる障壁と映っている。