観光だけでなく“スタートアップ都市”としての情報発信
――IVSを京都で開催して得られた成果や手応えについてお話しください。
中原氏 成果は3つほどあったと思います。1つは、京都とスタートアップという言葉が結びついて、大きく発信されたということです。スタートアップ支援の取り組みはしてきましたが、観光地としての圧倒的な世界的ブランディングの前では、京都をビジネスの地と認識いただくことは一筋縄ではいきません。京都でスタートアップという形で情報発信ができたのは非常に大きくて、行政だけではできなかったと思います。
2つ目は、IVSが京都のスタートアップ関係者やビジネス界隈の方々が一堂に会する機会になり、一気に距離が近くなったことです。京都のスタートアップエコシステムで関わる方々はもちろん顔なじみだったり、事業会社の方々とも接点はあったのですが、一つの事業に一緒に取り組むことで、お互いの強みや今力を入れていること等があらためてわかる機会となりました。事業会社のスタートアップ連携の窓口になっている担当者とも対話をさせていただく機会が増え京都の産業界とスタートアップ関係者の関係性が強くなったと感じています。
3つ目は、実際に京都のスタートアップ・エコシステムの可能性を直に感じていただけたことで、首都圏のVC(ベンチャーキャピタル)がブランチを4社ほど立てていただけたことです。IVSの求心力で府内外からたくさんのスタートアップや投資家の方々、さらには学生にもにお集まりいただけたからこそ、このような動きが生まれたのかなと思っています。
――カンファレンスもスタートアップ支援の1つですが、京都府としては今後、どのように支援していきますか。
中原氏 京都の強みは、やはりディープテックだと思います。大学や研究機関の集積を核に、そこから生まれた研究シーズから事業を生み出していくというものです。実際、この分野の企業が大きく成長してきていますし、全体に占める割合も高いというのが京都の特徴です。京都府としてはディープテックスタートアップの創出・成長環境のさらなる充実に向けて、これまで以上に力を入れていきたいです。
それに関して今の課題は、大学やシーズはたくさんあっても、ビジネスサイドの方々が首都圏に集まっているといるので、事業化して成長させるところが弱いということです。例えば、こういうニーズを抱えている人がいるから、その方にはこのシーズが使えそうだということを見出して事業化するビジネス人材が足りていないわけです。そういう人材をうまく京都に呼び込むことがまず必要かなとも思っています。例えば、ベンチャークリエイト型のVCであるとかインキュベーターの知見を京都に呼び込むとか。そして、最終的には京都で生まれて京都に定着できるような環境を整えていければいいですね。
ただ、海外から見れば日本市場はそれほど大きくないし、新しいものを取り入れるのに慎重な国民性もある。ビジネス環境として日本で事業化を進めるメリットを感じてもらえないのではないかと思ったりもしますが、京都ぐらいの規模だからこそ特区制度などを使った規制緩和や、社会受容性向上のための住民理解の促進なども含め、どうすれば新たな技術やサービスがいち早く導入できるのかを考えたりもします。この分野なら京都は世界でどこよりも社会実装が早くできそうだというモデルが1つでも出せればいいですね。そうすれば、さらに世界からも注目される都市になれるので、今年から検討を始めて、向こう何年間でこのモデルを出していく構想を持っています。
――スタートアップを盛り上げるために、国内で他自治体との連携はありますか。
中原氏 2020年から国は、「世界と伍するスタートアップ拠点都市」を全国で数か所選定し、集中的に支援して育てていくとしています。京都は大阪・兵庫とともに「京阪神」として選ばれています。それまでも情報連携はありましたが、選定されてからはもう1つの主体として京阪神でスタートアップ支援には取り組んでいます。ディープテック系の成長環境を整えていくということも大阪や兵庫と合意して進めています。大学のコンソーシアムも今は関西圏で構築して、関西のシーズとしてどういうふうに事業化するかを考え実践しています。
特にグローバルプロモーションについては関西一丸で取り組みましょうっていうのがあります。京都から海外に打って出られる段階にあるスタートアップは、600社の中でも限られていますが、それが京阪神で集まれば、それなりのボリュームになります。そうすると海外の投資家の関心を惹きつけやすくなると考えています。