基礎研究の蓄積を活かした包括的な情報基盤の構築
KDDI総合研究所の披田野氏は「長年蓄積してきたAIセキュリティの基礎研究の知見を活かし、AIの安全な利活用を支援する窓口となるサイトを目指している」と説明する。研究開始当初は機械学習モデルの活用が企業の一部に限られていたが、近年のAI普及により状況は一変した。「ChatGPTに代表される生成AIの登場で、誰もがAIを利用できる時代となり、セキュリティリスクへの対応も従来とは異なるアプローチが必要になっています」と披田野氏は危機感を示す。
この背景から、同サイトは専門家から一般ユーザーまで幅広い層をターゲットに、最適な情報提供を行う方針を採用。「従来のAIセキュリティ情報の発信は専門家向けに特化したものが多く、実際にAIを利用する一般ユーザーには届きにくい状況でした。しかし、セキュリティ対策の実効性を高めるには、一般ユーザーの理解と行動変容が不可欠です」(披田野氏)
独自の「AIセキュリティマップ」で社会的影響まで可視化
同サイトの最大の特徴は、AIセキュリティマップと呼ばれる独自の体系化された情報提供にある。既存の取り組みがAIシステムへの攻撃などシステム的な観点に留まっているのに対し、AIが人や社会に与える影響まで踏み込んで整理している点が画期的だ。
例えば、自動運転システムへの攻撃による事故リスクや、フェイクニュース生成といったAIの悪用事例も含めた包括的な情報を提供することにより、企業がAIを導入する際のリスク評価指標や、個人がAIサービスを利用する際の具体的な注意点まで、実践的な情報を分かりやすく解説している。
「既存のセキュリティマップは、システムへの攻撃手法や対策技術といった技術的な側面に焦点を当てていました。しかしAIの場合、そのリスクは経済的損失やプライバシー侵害、さらには社会的混乱にまで及ぶ可能性があります。こうした社会的影響を含めて体系化することで、より実効性の高い対策立案が可能になります」と披田野氏は説明する。
最新技術を活用した文献データベースの提供
同サイトでは、AIセキュリティに関する論文を独自に分類した文献データベースも提供している。大規模言語モデル(LLM)を活用した最新の分類技術により研究トレンドを可視化し、膨大な文献の中から必要な情報を効率的に抽出できる仕組みを実装した。
「AIセキュリティの分野は日進月歩で、新たな攻撃手法や対策技術が次々と報告されています。最新の研究動向を把握することは、効果的な対策を講じる上で極めて重要です」とKDDI総合研究所の披田野氏。研究者からは「トレンドが分かりやすい」との評価を得ており、すでに多くの専門家が活用しているという。