賛成、反対両者の意見を総合して判断するに、筆者は「代行サービスの存在意義はあるものの、だができるだけ使用しない方が良い」と思っている。その結論を最初にいうと、「使用者がトータルで得をする文脈がないから」と考えるためだ。

このサービスは「退職」がゴールのように見えるが、実際には「長く勤務できる職場を掴む」ことではじめて成功と言える。だが、この退職代行を使うと、本人のキャリアデザイン上メリットは皆無だと思える。その根拠を取り上げていこう。

まず、業界というのは広いようでいて狭く、退職理由や経緯は何らかの形で次の職場に伝わることもある。転職先の面接官や現場担当者が以前働いていた会社の人間だったとか、自分のことを知っていたという話はどこにでもある珍しい話ではない。

また、前職の状況調査が最大の壁だ。筆者が転職活動を行った際、リファレンスチェックや経歴確認を受けた経験がある。特に外資系企業やグローバル企業はリファレンスチェックを行うことが標準的で、前職の上司や同僚からの推薦状や連絡を通じて、候補者の職務遂行能力や人柄を確認することが一般的だ。

幸い、自分は経歴詐称もしておらず、正規の手続きで円満退職していたため、問題視されることはなかった。

しかし、仮に前職を退職代行を利用してそこでリファレンスが入れば

「そんなブラック企業でしか働けなかったのか?」 「人間関係がこじれていたのか?」 「もしかして本人がトラブルメーカーでは?無責任な人間では?」

といった“痛くない腹”を探られる可能性もある。どれに該当するにせよ「退職代行を使った方が通常に退職するよりメリットがある」という文脈はないはずだ。

もちろん、精神的に限界で正常な判断すらできない状態にあるなら、退職代行は命を守るための有効な選択肢であることは否定しない。だが、そこまで追い詰められておらず、会社とまともな話し合いが可能な状況で、単に面倒くささや一時的な逃避行動で繰り返し代行を使うのは避けたほうがいい。