そこで新規事業に挑戦する多くの人は、こう考えがちです。
「多くの人が困っている課題って、ないかな?」
このパターンでは、新規事業の種はなかなか見つかりません。
実は見つけるべきは、多数派の意見ではなく「違和感がある少数意見」です。
山小屋は実は不満の宝庫でした。でも世の中のほとんどの人は、山小屋に泊まった経験がありません。私も人生で1回だけです。「山小屋の宿泊体験」について意見を持つ人は、そもそも少ないのです。
そして山小屋に頻繁に泊まる登山客の多くは、「辺鄙な山奥に宿泊施設があるだけで、有り難い。山小屋ってそういうもんでしょ」と思っています。
こうして「宿泊体験は最悪」という不満はあったものの、この不満は無視され続けていました。だから山小屋は山小屋のまま、変わりませんでした。(ただ一部にはお風呂に入れる山小屋もあるそうですが)
かくして「山小屋の宿泊体験を、普通のホテル並にして欲しい」という少数派の意見は、「ムリムリ。山小屋ってそういうもので、あるだけで有り難い存在なんだ。嫌なら登山しなきゃいい」という山小屋に泊まる多数派の登山客の意見に、埋もれていたわけです。
まさに「違和感ある少数意見」だったわけです。
これは考えてみれば、当たり前のことです。これまで山小屋の顧客は、山登りに慣れた「登山客」。彼らにとっては山小屋の不便さは当たり前のこと。だから私たちが不満に感じたあの山小屋でも、登山客からは「革命的に快適」と言われたわけです。
しかしそれは「登山客にとっての山小屋」です。
登山客ではなく、普通のホテルを標準に考える人は、山小屋の宿泊客の中では少数派でした。
この少数意見に応えられれば、「皆が本当は欲しがっているけど、ありそうでないもの」の創造につながって、新たな市場を生み出せる可能性が出てきます。
実際に星野リゾートの登山者向けホテル「ルーシー」は、この課題に真正面から取り組んでいます。