私のすぐ隣で、全く知らないおじさんがとても大きなイビキを立ててスヤスヤと寝てます。おかげで一睡もできませんでした。かく言う私も、他の人からは「知らないおじさんが隣で寝ていて、気が休まらず、寝られない」と思われているはずです。お互い様です。
景色は実に美しく、山小屋の人も実に親切。でも宿泊体験は残念ながら最悪でした。
翌朝の早朝、私と同様に一睡も出来なかった妻は、登山コースを歩きながら、「徹夜明けで、危険な崖を歩くのはイヤ。もう泊まりたくない…」と涙目でした。
他では決して得られない豊かな自然体験ができるのですが、私の場合、体験価値のマイナス分がプラス分を上回っていました。それから山小屋には二度と行かなくなりました。
大自然の中にある山小屋は、登山客にとって実に有り難い存在です。一方で不満の宝庫でもあります。そして山小屋に泊まる大多数の登山客は、それを受け入れているようです。
「だって、山小屋ってそういうもんでしょ。あるだけで有り難い存在なんだよ」
ここに目をつけたのが、星野リゾートです。
2025年5月、星野リゾートは『登山者向けホテル「ルーシー」の展開を始める』と発表しました。9月に「LUCY尾瀬鳩待」(群馬県片品村)を開業します。
同社・星野佳路代表は2025/5/26の日本経済新聞のインタビューで、こう語っています。
「日本の自然はスイスやカナダと変わらない豊かさがある。自然観光を強くしていく上で何ができるか考えて、出てきたのが山のホテルの改革だ」
「山小屋はWiFiやシャワーがなく、知らない人と同じ空間で寝なければならない。現代の個人旅行者にとって抵抗感のある宿泊スタイルが残っている。最低限の設備があれば、山に行きたい人は相当数いる」
これは、まさに新規事業の成功パターンです。
新規事業で成功するには「皆が本当は欲しがっているけど、ありそうでないもの」を提供することです。