よくある「日本が嫌だから海外へ」という移住パターンは、負の部分を想定できていない可能性が高い。「子どもの将来のため」として移住した結果、言語・人種の壁によるいじめや差別に直面し、将来の結婚や子を設ける機会を損なうリスクもよく聞く。こうなると一体、何のために移住したのか分からなくなってしまう。

移住には強い覚悟と緻密な戦略、そして冷静な現実認識が求められる。

それでも移住が有利な人

ここまで厳しい現実を並べたが、すべての人にとって海外移住が無理だと言いたいわけではない。実際にうまくいっている人もいるし、合理的な選択になるケースもある。

典型的なのは、前述したような高いハードルをすべて乗り越えられる「高度人材」だ。語学力、専門性、現地で通用する資格、人脈、資産などを総合的に備えているならば、移住はむしろ有利に働く。

もう1つのパターンが、「日本で勝ってから移住」するという戦略だ。つまり、海外へ行く前に、すでに日本で一定の実績や信頼を築き上げている人である。

よくSNSでは「日本はもう終わってる、だから海外へ行こう」と扇動する発信があるが、彼らはその前段階で国内でキャリアや信用を確立しているケースが圧倒的に多い。

筆者自身も、日本でスキルと成果を積み上げたうえで、海外の大学へ留学し、グローバル企業と環境で仕事のスキルと経験を積むというプロセスを踏んできた。これは「逃避」ではなく「拡張」としての海外活用である。このように、「まずは日本で勝つ」ことで、移住後も選択肢と交渉力を保ちやすい。

ゼロベースで海外に飛び込んでローカルで勝負して生き残れる人は、残念ながらほんの一握りにすぎない。

移住は決して魔法のチケットではない。場所を変えれば人生が劇的に好転するというのは、極めて例外的なケースに過ぎない。現実はむしろ、住み慣れた日本よりも厳しい競争、頼れる人もいない孤独、そして評価の初期化が待っている。