日本で積み重ねてきた学歴・職歴・人脈といった資産は、海外では多くの場合「白紙からの再評価」を余儀なくされる。たしかに、大学や大学院の学位が入国審査時に一定の評価対象にはなる。だが、現地の企業で仕事を獲得したり、信頼を築いていく過程では、日本ブランドの学歴や経歴がそのまま通用するとは限らない。ローカルでの実績や実務能力が問われるからだ。

現地で求められるのは、非常に高い言語運用能力と、職種に応じた高度な専門性、そして即戦力としての信頼である。たとえばカナダの「Express Entry(永住権申請制度)」では、語学力(IELTS7.0相当以上)、学位、職歴などのポイントを総合評価する制度があり、最低点に達しなければ応募すらできない。アメリカの就労ビザ取得はさらに厳格化しており、抽選・スポンサー・高年収など複数のハードルを同時に越える必要がある。

加えて生活コストの高さという現実もある。トロント、シドニー、ロンドンなどは東京23区を上回る家賃水準で、物価も上昇基調にある。日本と同水準の暮らしを望むならば、現地収入がなければ貯金は一気に目減りしていく。インフレが進む新興国ですら、日本と同水準の生活を求めればコストは相応に跳ね上がる。将来のことは誰にもわからないという前提だが、実質賃金が伸び悩む日本も、少なくとも現状は治安、医療、水準の高いインフラや社会保険を含めた「総合力」では依然として優位な側面がある。

さらに追い打ちをかけるのが、今後ますます進化していく生成AIの存在だ。言語・テクノロジーの両方に強みを持たない移民は、機械に代替される可能性が高く、失職リスクが高い。実際、アメリカのデータでも移民層の貧困率は12%超にのぼるとされており、すでに格差が顕在化している。現在でさえ、アスリート、科学者、芸術家といった「国家に利益をもたらす人材」に限ってビザが下りるような状況だ。今後は、さらに淘汰が進むだろう。