研究者たちは「この感度があったおかげで、レーザー光を使って振り子の温度をわずか10ミリケルビンまで下げることができました」と述べています。

重力だけで量子もつれを起こせるか?

重力だけで量子もつれを起こせるか?
重力だけで量子もつれを起こせるか? / Credit:clip studio . 川勝康弘

今回の成果について、研究者たちは「これは始まりに過ぎません」と述べています。

現在の段階で、振り子の運動は量子ゆらぎに迫るほど小さく制御できましたが、それでもなお完全に「量子の最低エネルギー状態(量子基底状態)」に達したわけではありません。

言い換えれば、振り子の持つエネルギーを絶対零度に対応する最小限まで取り去りきった状態(ゼロ点振動だけの状態)には、もう一歩及んでいないのです。

研究チームは今後、この真の量子基底状態を実現することを目標に掲げています。

そのためには光学的な相互作用をさらに強める工夫が必要で、例えば光学キャビティ(光の共振器)によって振り子の微小な角度変化を増幅したり、レーザーの力で直接振り子を宙に浮かせるような新たな手法(光学トラップ)を検討したりしているとのことです。

これらの改良により、振り子の冷却はついに量子基底状態に到達し、単一光子スケールの力を直接観測するような実験も視野に入ります。

では、なぜ研究チームはそこまで振り子を冷却し、量子の静けさを追い求めるのでしょうか。

その答えこそ、「重力が量子である証拠をつかむ」ための実験計画にあります。

研究者たちたちは将来的に今回のような冷却振り子を2つ用意し、互いに重力だけで影響し合う状況を作り出すことを構想しています。

極限まで熱揺らぎを抑え量子状態に近づけた2つの振り子を真空中に置き、機械的・電磁的なつながりは一切持たせずにただお互いの重力だけを感じさせるのです。

もし重力が他の力と同様に量子的な現象であるなら、この2つの振り子の間にごく微かな量子もつれ(量子力学的な相関関係)が生じる可能性があります。