具体的には振り子に小さな鏡を取り付け、そこにレーザー光を当てて振り子の角度の変化を捉えます。
「オプティカルレバー」と呼ばれるこの手法では、鏡がほんの僅かに傾くだけで反射したレーザー光の位置が大きくずれるため、振り子の微小な角度変位を拡大して検出できます。
しかしレーザー計測には課題もありました。
研究者たちは「レーザー光そのものが空気の揺らぎや振動、光学系のわずかな乱れによって微妙にブレてしまうことがあります。これがあたかも鏡(振り子)が動いたかのような誤信号として現れてしまい、真の物理信号の測定を妨げるのです」と説明しています。
つまり装置の感度を上げるほど、レーザーの揺らぎによる偽の振動信号(ノイズ)が無視できなくなる問題に直面したのです。
研究チームはこの課題を解決するために「ミラー付きオプティカルレバー方式」を導入しました。
同一レーザーをビームスプリッターで二分し、一方のビームを振り子の鏡に当てて振動を計測しつつ、もう一方をコーナーキューブ反射器で逆向きに戻してレーザー固有の揺らぎだけをキャンセルする仕組みです。
2本のビームを検出器上で重ね合わせると、振り子の本当の信号だけが残り、不要な揺らぎ成分は打ち消し合って消えます。
この巧妙な手法により角度ノイズのパワースペクトルが約60 dB(振幅でおよそ1/30)低減され、振り子の運動を極めて高い精度で捉えることが可能になりました。
圧倒的な低ノイズ化により、研究チームは振り子の微小運動を量子論が規定する「ゼロ点ゆらぎ」よりも約10倍も小さいノイズで検出できるようになりました。
この高感度を活かし、研究チームはレーザーの光圧によるフィードバック制御で振り子から熱エネルギーを奪い、室温(約300 K)から10ミリケルビン(0.01 K)という極低温まで冷却することに成功しました。
10ミリケルビンとは絶対零度のわずか0.01度上の温度で、人類が達成した中でも指折りの低温です。