ただし、この研究にはいくつかの限界もあります。
まず、分析対象とした「Qアノンの犠牲者たち(r/QAnonCasualties)」は陰謀論による悪影響に苦しむ人だけが集まる場であり、データはどうしてもネガティブな事例に偏ることになります。
言い換えれば、実際には陰謀論から立ち直って家族関係を修復できたケースや、信奉者本人の視点などはこの分析には含まれていません。
また、投稿者の年齢や性別、政治的傾向や信仰といった属性データがないため、そうした要因による違いを検証できない点も課題です。
フィリップス氏も「フォーラムには陰謀論の悪影響に苦しむ人しか集まっていないため、この研究結果を利用する際にはその偏りに注意すべきだ」と認めています。
ただし氏は、「陰謀論はQアノンに限らず昔から存在し今後も現れ続けるものだから、今回の知見にはQアノン以外にも一般化し得る可能性がある」とも述べています。
陰謀論の社会的弊害というと、デマの拡散や政治的過激化など大局的な問題に注目が集まりがちです。
しかし本研究は、その陰で見過ごされがちな家族単位の痛みに光を当てました。
陰謀論によって心が引き裂かれる家族を支援することも、今後の社会における重要な課題と言えるでしょう。
フィリップス氏自身も、この成果によって陰謀論が人間関係――とりわけ家族――に及ぼす影響への理解が深まることを目指しています。
家族という基盤から社会全体を蝕む陰謀論に、私たちは今後どう向き合うべきなのでしょうか。
今回の研究は、その難題に取り組むための一歩となるかもしれません。
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元論文
“I’m so worried about my whole family”: Modeling r/QAnonCasualties to better understand the effects of (QAnon) conspiracy beliefs on families
https://doi.org/10.1177/02654075251328116